もはや若白髪ではない

そう、もはや、これは若白髪ではないのです。

メスオオカミの爪痕

夜中にふっと目覚めたら、

私のすぐ横で、

筋肉質な肉体が、月明りに照らされていた。

満月のせいで、いつもより月の光が強い。

そして、私の中のメスオオカミが襲いかからんと吠えている。

 

待て!ドードードー・・・待てい!

 

ひたすら、心の中のオオカミにコマンドを出しながら、

身悶えた夜は、ようやく明けた。

 

半裸のまま起きてきた男に、私は挨拶よりさきに、

「ちゃんと、服着て寝なきゃ、風邪引くぞ」と、

極めて爽やかに伝えたが、白眼は寝不足のせいで充血していた。

それを悟られまいと、さりげなくすれ違おうとしたが、

夜通し、抑え込んでいた、風呂釜めいっぱい程の欲求が、

とうとう溢れ出てしまい、

私は、咄嗟に、まったくもって無意識に、

男の胸を両手で揉んだ。

朝6時の出来事だった。

 

職場に居ても、という事は今の話だが、

頭の中は、やりたいばっかだ。

いや、正確に記せば、本心は「抱かれたい。襲われたい。」のだ。

私は、あくまで、受け身な女。

抱きにはいかない。抱きに来い!という訳で、

そこは譲れない。

人間誰しも、性癖は譲れないものなのだ。

 

私が共に暮らしている男は、優しくて真面目な男だ。

性に対しても、決して奔放な男ではない。

それどころか、下ネタなんぞ笑って話せる男ではなく、

極めて紳士的で、ドノーマルである。

オオカミというよりは、ラブラドールレトリーバーなのだ。

 

「イヤ、ダメよ」などと言えば、そっこく止めてくれる。

違う!止めんな!

今のは、嘘のイヤなんだ!

なんて、説明できる訳もないのだが、

ここ2~3年は、交渉の場にさえも来ない。

毎日同じ家の中で寝ているにもかかわらず、私はほとんど手つかずの状態だ。

そうなってすぐの頃は、それも全く気にはならなかった。

無ければ、別に無していいと思っていたのだ。

それなのに、ある日、突然、性欲に目覚めてしまった私。

これが、巷で聞く、女性ホルモンの最後のあがきなのだろうか。

 

さて、困ったぞ。

 

ここで、私がまず最初に取った行動が・・・

来ぬのなら 消してしまおう わがエロス

という訳で、

この日本国で、昭和の教育を受けた私は、まず耐える事を選んだ。

大和撫子、ここに在りだ。

 

しかし、私の考えは甘かった。

想像以上に右肩上がりの性欲は、矛先をも狂わせていく。

会社を支え続けて50余年の、社の重鎮が、

ズボンのベルトを触っただけで、エロスを感じてしまう。

そして、イケない事を想像してしまうのだ。

この人なら、抱いてくれるかもと。

「ボクは、腰と膝に爆弾抱えてるようなもんだ」と

周囲の社員達と話している、そのおじいちゃんを見ても、

足腰の心配をするどころか、

自分の事をボクって言うんだ、素敵っと

更にエロスを感じる始末だ。

完全に、恋に陥った。

 

それどころか、笑顔で挨拶をし合う、男性社員全員に、

抱かれてもいいと、思えてくる。

まずい・・・。

 

勤務先で、面倒な事を起こすわけには行かない。

そう考えた私は、

そうだ、浮気しよう。

いいじゃん、一応、独身だし。

と、あっさり思い直した。

 

という訳で、残念ながら、

我慢しようと堪えた清らかな精神は、性欲には勝てなかった。

すっかり開き直って、携帯電話を開いた。

いわゆる「出会い系」を利用したかったのだ。

ところがだ。

ところが、やり方が解りません。

ついでに、持ってる携帯は、ガラケーです。

誰にも、聞けません。

そして、なにより、怖いです。

 

こうして、浮気作戦は、始まる事もなく、終わった。

こうなったからには、

何が何でも、彼氏に抱かれなければ、ならないのだ!