もはや若白髪ではない

そう、もはや、これは若白髪ではないのです。

始まりの日

30代の頃までは、鼻の下の産毛に、

細心の注意を払っていた記憶があるのだけれど、

40代になって数年、

最近、気付いた私の癖は、鼻の下の産毛を触る事だった。

ジョリジョリしてる毛並みにあらがって撫ぜるのが、

なんとも、心が安らぐのだ。

デスクで考え込みながら、顎を触るおじさんの気持ちが分かる。

 

でもしかし、

産毛が濃くなる程に、男性ホルモンが勝ち名乗りを上げ始め、

心身ともに、性別が危うくなってきた昨今、

私は、性に目覚めてしまった。

そして、悲しいかな、女性として、性を求めている。

抱きたいのではなく、抱かれたいのだ。

 

家に帰れば、男は居るが、

9年間、共に暮らしてきて、自分から求めた事など1度も無い。

したいとも思った事がない。

それが、今年に入って、突然、性への衝動が湧きあがってしまった。

 

ある日、実家へ立ち寄ると、年老いた両親が、テレビを観ていた。

私は食卓の椅子に腰かけ、何気にテレビに眼をやると、

画面には、自転車に乗った、火野正平が映し出されている。

どこだか分からないが、ひと気もまばらな、静かな道を、

火野正平が、呟くようにしゃべりながら、自転車をこいている。

なんとも、ほのぼのとした番組だ。

それを観る母さんの顔は和やかだった。

父さんは微笑みながら、静かに観ていた。

そして、娘の私は、

密かに、しかし激しく、一気に、発情した。

なぜか。

 

これが、始まりだった。