もはや若白髪ではない

そう、もはや、これは若白髪ではないのです。

依存という深い沼

今週のお題「私の沼」

これは、深い、沼の話になるのかもしれないが、

私がハマった沼は、依存だった。

 

幼い頃、私は、よく預けられた家の主人から、性的虐待を受けていた。

老いた、男だった。

しかし、いまだに、私は、あれを虐待いう言葉で表す事に戸惑いを感じている。

間違いなく、あれは虐待だった。

苦痛も感じた。

だが、あれは、当時、私が感じられる、唯一の愛だった。

泣きさえしなければ、騒ぎさえしなければ、嫌がらずにさえいれば、

男は、私に愛を与えてくれたのだ。

歪んでいようが、男からの愛を乞うしか、私の孤独は癒えなかった。

5歳、歪んだ愛に、依存していた。

 

小学校に上がり、私は、男の家に預けられる事は無くなった。

当時は、親が帰らぬうちに、鍵を開けて家に入る子供を、かぎっ子と呼んでいた。

私も、晴れてかぎっ子となったのだ。

あの、言いようのない後ろめたさと苦痛からは解放されたが、

引き換えに、私は酷い孤独に苛まれるようになった。

心の穴を埋めようと、ひたすら食べる事に集中していく。

7歳、過食に、依存していく。

 

高校に進学する頃には、私は傍から見れば、

よく食べる、ぽっちゃりした明るい少女へと成長していた。

心の中は、死ぬ以外の希望は見いだせずにいた。

ついに、死ぬ事を実践に移したが、未遂に終わり、私は絶望を覚えた。

ある日の夜、ふらっと外を歩いていた私に、男から声を掛けられた。

大学生だと言っていたが、そんな事はどうでも良かった。

死ねないのなら、自分を変えたい。

そう願い、私は、行きずりの男に誘われるまま、ホテルへ入った。

震えが止まらぬ私に、男は優しかった。

まるで、幼い頃の、あの男のように、優しかったのだ。

17歳、これを機に、セックスに、依存していく。

 

「誰でもいいから、私を愛してください。」

当時、盛んだった伝言ダイヤルというサービスに、

そう伝言を残しては、様々な男と一夜を過ごすようになった。

金を渡す男もいれば、また会いたいと言う男もいた。

優しい男もいれば、酷い男もいた。

どんな男に抱かれても、私の心は満たされることは、なかった。

家では、相変わらず、両親が飲んだくれて喧嘩ばかりだった。

金儲けの事で、頭がいっぱいだったのか、

私がたまに深夜に帰る事など、気にも留めなかった。

ある日、父が私の鼻の頭を押して、ろれつが回らない口で、

「お前は、さすがに、まだ処女だな。鼻の頭が割れておらんから」と

笑いながら言った。

ここから、逃げよう。そう思った。

 

親から逃げても、依存からは、逃れられなかった。

セックスの次は、錠剤。

その次は、拒食。

そして、アルコール。

30代半ば、私には、もう健全な奥歯が1本も残っていなかった。

そしてついに、大病で命を落とし掛けた。

やっと、終われる。

意識が薄らいでいく中、私は今までに感じた事のない静寂に包まれていった。

 

 そのはずが、どういう訳か、帰ってきてしまった。

帰ってきて、子猫を1匹拾った。

その前から、数匹の猫と暮らしていたのだか、子猫を抱いたのは久しぶりだった。

その日の夜、外で猫が大きな声で鳴いていて、窓から覗いてみれば、

抱いている子猫にそっくりな模様の成猫だ。

あれは、親猫かもしれないと思い、子猫を連れて、外へ飛び出した。

地面に下ろすなり、子猫はよちよち、成猫の元へ近づいて行き、

成猫は、迎え入れて、子猫を入念に舐めてやった。

やっぱりかと思った瞬間、成猫は消えるようにその場から去った。

子猫を置いて行ったのだ。

 

呆気にとられた様子の子猫を抱いた時、その子猫がずっしりと重く感じた。

この命は、母さんが命懸けで産んだ愛される命なんだ。

大事な、大事な、命なんだ。

私の元に居る、他の猫達もそうだ。

死にたいなんて、言ってる場合じゃない。

死にたかろうが、辛かろうが、私が生きてなきゃ、こいつらを守れない。

こいつらを、愛してやれない。

 

この日から、私は、猫に依存するようになったのかもしれない。

仕事以外の時間は、ほとんどすべて、猫達の世話に費やした。

おおいに遊んで、たっぷり撫ぜて、良い子だねっと話しかけた。

猫の為に、自分の体を気遣う必要も感じ、奥歯も治そうと思い立った。

自分の体のために、自ら医者に行くなんて、初めてだった。

歯科医は、私の口の中を診て、

「治療はかなり大変ですよ」と言ったが、

その通り、怖い痛いばかりの治療が始まった。

やってる事は、えげつない事なのだろうが、

目をつむって口をあけている私の頭に、時々、触れる歯科医の体を感じるたび、

まるで、「良い子良い子」と頭を撫ぜられているような錯覚に陥って、

私の目からは、涙がこぼれそうになった。