男から渡された2冊の本を、私は必死で読んだ。
文字を追い始めると決まって眠くなるはずが、
この時ばかりは、そうも言っていられなかった。
「読んだら、感想聞かせてね。楽しみだなぁ」と、
無邪気に言った男の顔がチラついて、眼を休める気にはなれなかったのだ。
次に逢う日までには読むと決め、気合で読み進めた。
私は、子供の頃から、根性だけはある方だった。
それは自分を高めるための根性ではなく、
誰かの期待を裏切りたくないがために根性だ。
期待に見事応えて、認められたいというひたむきさではなく、
見捨てられたくないという卑屈な感情が、私の原動力になることが多い。
見捨てられるくらいなら、不眠不休で本を読むのだ。
そして、不眠不休とまでは言わないが、2冊ともなんとか読めた。
次に、感想を一旦ノートに書いて、それを頭に叩き込んだ。
よし、これで準備万端だ。
逢ったら感想を述べよう。
ついに、逢瀬の日がきた。
いつものホテルで落ち合い、2人並んでソファーに腰かけた。
この時間、男は決まって、まず私にキスをする。
が、この日は、その決まりが崩された。
本の感想も聞かれることもなく、穏やかな笑顔もなく、
床に置いたバッグから何か取り出そうとしていた。
私は黙って、男の次の言動を待っていると、
男は体勢を整え直し、
「おちゃこさん、これを貴女の首に着けるよ」と真顔で言った。
その男の手には、黒い革の首輪があった。
私はそれを見るなり、どういうわけか、体の芯がジーンと熱くなった。
「おちゃこ、俺の奴隷になりなさい」